映写雑記

映画館の設備視点

『シン・ウルトラマン』を映写視点で観るよ

こんにちは、『シン・ウルトラマン』が公開されましたね。
話のネタバレは一切ないですが、劇中の演出的な話は触れますので、一切情報を入れたくない人は観ないようお願いします。

『シン・ウルトラマン』を映写視点で観て行こうと思います。

普通に5.1chでやってきたウルトラマン

シン・ゴジラ』の時はLPCM3.1chという変化球なサウンドスペックでした。
聴いた話ではたしか最初は1chのMONOというサウンドスペックで作ろうとしていたそうです。
流石にそれはダメと一番偉い人にでも言われたのか、でもそれっぽい感じで妥協したのが3.1chなのかもしれません。あんまり詳細はしらないです。

恐らく、当時がMONO音源だったのでそれを再現したかったのかなと思います。
なので今回こそはもしかしたらMONOで来るかもしれない!!と思っていたのですが、普通に5.1chでした。しかも結構バリバリに一部サラウンドしてますし、LFEも鳴ります。

「シン」シリーズは少し身構える

シン・ゴジラ』『シン・ヱヴァンゲリヲン』、あとシンではないですが『サンダーバード55』庵野さんと樋口さんが絡む作品で起きた悲しい事件があります。
この2人の作品を長年観てる人であれば良く分かると思うのですが、文字がいっぱい画面に出てくる癖があります。
そして、演出に拘ったためか、文字の配置を画郭のほんとにキワッキワを攻めた結果、日本全国いろんな映画館で映像上の文字が切れてしまうという事件が発生。

サンダーバード55』なんて最初から文字切れるかもしれないごめんね☆ミ(超要約)という案内が来る始末。※樋口さんが構成担当してるためか日本語の文字配置がたぶん樋口さん
たしかシンエヴァも最後の終劇が~って案内きてた気がする。

今迄のシンシリーズ公開当時、日本の劇場設備インストール業者の大手2社も「画郭なんとかしてくれえ!!」という映画館からのヘルプで連日阿鼻叫喚だったらしいです。
僕の所も例に漏れずがっつり切れました。

そのような過去があるので、今回も多分やばい気がするという気持ちで構えていましたが、さすがに怒られたのか、なんか今回は気持ち全体的に中央よりの文字になっていました。たぶんあれで切れる映画館は無いと思います。

よしよし。

けど実際その中央よりの状態で観ると、確かに画面キワまで文字で埋めた方が「なんかカッコいい」という気持ちもあったので、映写的には嬉しかったですが、演出的にはちょっと残念かもという気持ちもあったりなかったり。

映画館の画郭の話

映画館の映像の話を少しします。
映画の映像ルールとして映像の外枠10%は見切れても差支えないエリア(有効映像域が90%)として作らないといけないというルールがあるそうです。というか映画館側からしてもそうしてくれないと難しいです。

何故かというと、映写角左右上下0度フラットスクリーンというポスプロレベルの画郭レベルを出せる映画館なんてほぼありません。

プロジェクターの映像というのは、固定アスペクト比の長方形で投影されますが、角度が0.1度でもつけば、映像は台形に歪みます。DCIという映画の世界ルールみたいなのがあるのですが、それによりシネマプロジェクターの台形補正は禁止されているので、角度でついた台形歪みはそのまま映さないといけません。

しかし台形がついた状態はかなり視覚上の違和感を覚えてしまうので、35mm映写機ならばアパチュアマスク、プロジェクターなら電気マスクといった映像を任意の形にカットする機構を使い、スクリーンの長方形に映像を当てはめて行きます。
その際映像が切れるので、映らなくても良いエリアが無いと画郭のセッティングができません。

そのため、だいたいの映画館は映像の台形歪みは起きているけど四辺は綺麗な長方形な状態になります。実はすごおおおおおおく良く観ると二段字幕の下段が上段より大きかったりする場合がありますが、台形歪みの影響の一つです※台形も映写角度で形が変わるので全てではありません。
湾曲スクリーンになるともっと複雑になりさらに映像を切り込む事があります。

という上記の仕様が映画館にはありますが、大事な部分が見切れる作品はちょいちょいと出てきます。なら見切れないようにすればいいやんという話ですが、これがちょっとやっかいです。ルール上の10%の欠損OKエリアを上手に使い、そのスクリーンで一番画を観たときの充実感が得られるセッティングを煮詰めていきますし、さらに細かい事を言えば、レンズの仕様とスクリーンサイズと映写距離という問題も出てくるので、なかなかの職人技の域の話です。
なのでルールを無視した作品のためだけに画郭を作るというのは、映写視点だけの気持ちを言えば「公道で速度違反した人のために制限速度を引き上げる」という気持ちで、「何でや」と思う気持ちがあります。

まあ、お客さんからするとそんなんどうでも良いので、映画館が対応するというのもしょうがないとも思ってはいます。ただ、切れてる部分を映すようにするにはいわゆる額縁上映といって、上下左右に黒味を作る形にしないといけない事が多いので、どっちが全体的に良いのかは悩みどころです。
少しとか言って一番文字数が多くなってしまった。

 

『シン・ウルトラマン』は映画館で観ると映写的にもいろんな発見があるかもしれないです。