映写雑記

映画館の設備視点

めちゃくちゃ高いスチュワートのスクリーンって映画館で使うと実際どうなの?

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2劇場分のスクリーン

こんにちは、さっそくですが、上の筒はスクリーンです。劇場用スクリーンはだいたい筒にミルフィーユのように緩衝材を挟みながらまきまきされて運ばれてきます。

ホワイトスクリーンでは折りたたまれてる場合もあるそうです。

 

今回はスクリーンの高級ブランド的なスチュワートというメーカーのスクリーンについて、導入から使用感、メリットデメリットを綴っていこうと思います。

 

スチュワートスクリーンの仕様

このスクリーンのスペックです。

Specs

Material Type Flexible Front
Maximum Size 40'(h) 90'(w)
Peak Gain 1.0
Half Gain Lambertian
Ambient Light Rejection Value 15%
Ambient Light Resistance N/A
Minimum Throw Distance 0.3 x Image Width
Edge Blending Properties Excellent
Passive 3D use No
Lay Flat Quality Excellent
Flame Resistance Yes
Can be Perforated Yes

 

あんまり普段こいうの見ないので、正直アバウトにしかわかりません。エクセレント!っていってるのでたぶんすごく良いんでしょう。

リンク先の視野の入射角に対するゲインの図もたぶん大事な図なのかなって思います。

https://www.stewartfilmscreen.com/en/materials/snomatte-100

 

スクリーン張替えの前準備

主にスクリーンの導入で必要とされるデータでは、スクリーンゲインが重要になります。上の図だとpeakgainの所です。

1.0というのはホワイトスクリーンでは普通です。

この数値をもとに導入前にシミュレーションを行い、投影時に必要な輝度を保てるかという計算をするんですが、ビスタサイズは問題なかったのですが、ㇱネスコサイズの時、ランプを大きくしてさらにパワーを最大にしても輝度の値が基準値をクリアしてはいるけど、上のマージンがとれないぐらいギリギリでした。

数値でいうと14ftLが基準値で、シミュレーション上はランプパワー最大の100%で15.4ftLという結果に。

 

え、うそでしょ。って思ったんですけど、どうも映写距離とスクリーンの大きさの関係でそうらしいです。

 

ちょっと落胆したんですが、ホワイトスクリーンに拘りたかったのと数値的にはまあ基準値をクリアはしてあるので、OKいきましょうと。ただこの後ラクルな事が起きるとは誰も思ってませんでした。

 

ちなみに、既存だったスクリーンはハークネスのクララスという当時最新だったシルバースクリーンです。シルバー塗料の結晶を工夫する事によって、パールホワイトのような質感で映像が観れるというのが売りでした。

えぇ、二度と使いません。シルバースクリーンとしてはかなり良いスクリーンだったのですが、耐久性が度し難いほどに低かったです。使用環境でもこの辺は変わるのですが、私のいる映画館では全然塗膜の状態が持ちませんでした。

 

スクリーンを貼ってみた

コロナでちょっと遅れてしまいましたが、先日、張り替えが完了をしました。いろんな人たちに頑張っていただいたおかげで無事に収める事が出来ました。

 

映像をみた感想を言います。

 

最高ですね。

 

映像みて感動したのは久々でした。

 

さて、先ほどのミラクルが起きたという話です。

シミュレーション上では輝度があんまり取れないという感じでしたが、なんと実測したら、ランプパワー50%ぐらいで必要な14ftLをこえてしまいました。

 

スチュワートのスクリーンゲインって、実は詐称してない?って思うほどにめっちゃくちゃ明るいです。某車メーカーみたいなスペック逆詐欺するんですかね?

 

それと映像の色の調整をしてもらったプロジェクターメーカーのいつもお世話になっているベテランのYさんが、この仕事してきた中で一番綺麗に色がでてるかもしれないみたいな事を漏らすほどに凄く良い状態です。

 

この段階で、私は高いスクリーンだけあって素晴らしいな。と満足しました。

 

スチュワートスクリーンのメリットデメリット

さて、これが初のスチュワートのスクリーンの導入ってわけではないので、今回の張替えと合わせて以前から使用している同じスクリーンを3年ほど使っての使用感です。

まずメリットです。

 

メリット

①映像がとても綺麗

何故かスペック上、他のメーカーと大差はないのですが、素晴らしく綺麗に映像のノリがいいです。あとランバート反射なのでどの角度からみても綺麗な画が観れます。これはいろんな角度から見る客席というものがある映画館ではとってもありがたい事です。

あまり馴染みは無い事だとと思いますが、スクリーンの投影というのはかなりの色の変化が観る角度によっておこります。

それとシームレススクリーンなので、普通は巨大なスクリーンって一枚の生地ではなく、短冊上に何枚もの生地をつなげてあります。

スチュワートは本当の一枚ものの生地で作っており、生地のつなぎ目が全く見えないのでとても綺麗に投影ができます。工程的に凄く設備と手間がかかるので値段が高い理由の一つです。

最近のスクリーンは技術力があがってほぼ見えないのですが、見慣れてる人たちがスクリーンを観ると繋いであるポイントが結構みつけられます。

 

あとサウンドフォールという、映画館のスクリーンは音を通すために穴が開いてるのですが、処理の問題なのですかね、同じぐらいの大きさと穴の量のスクリーンと比べてもなんか目立ちにくい気がします。

 

②明るいためランプパワーが抑えられる

本当に1.0ですか?ってぐらい明るいので、ランプパワーを抑えながらも余裕のftL を叩きだせる。

映写機もプロジェクターもランプの使用時間てのは決まっていて、ランプの大きさでも変わってきます。基本的にランプが大きい方が使用時間が短くなり、どいうわけか不安定になりがちです。小さいランプの方が長寿命で安定して運用できます。

そして、運用時のランプパワーを抑える方が安定して長時間つかえます。

 

例えば、3kW球と言われる大きさのキセノンランプは1000時間で交換しなければいけないのですが1000時間は安定して使えるというものになります。しかし、ランプパワーを最大で使うと、1000時間使う前にフリッカーといわれる点滅現象やら点火不良がおきやすくなります。経験だと600時間ぐらいでダメになる物もありました。

 

つまりランプパワーを上げつつ運用すると、単純にランニングコストがとても上がってしまうのです。電気代もかかるしね。

このスクリーンを使うとランプパワーを抑えつつ高クオリティの映像をお届けできるので長期的にみればコスト減の効果があり、お客さんも大満足な感じですね。

 

まあ、レーザープロジェクターになるとあんまり関係なさそうなんですけど、、、

 

③音の抜けが凄く良い

これ!凄く抜けが良くなります!!

Bチェーン(映画館での劇場の音響調整)をやり直さないと行けないぐらいに抜けがよくなります。

他社と比較しても、サウンドフォールの大きさが特別大きいとかそいうのは見当たらないのですが、なぜか抜けが良いです。生地の問題でしょうか?

 

④時期やロットによってのばらつきが少ない

導入事案があまり多くないので私の経験上の話だけになり、もしかしたらあるかもしれませんが、スチュワートは品質のバラつきが無いように感じます。

スクリーンて同じメーカーで同じ品番のスクリーンを買っても、時期と生産工場によって品質が大きく変わります。業界間で、今某メーカーは買わない方がいいとか言われるぐらい質に差が出ます。

 

⑤匂いがいい

いやこれは個人的なものなのですが、ちょっと甘い匂いで好きです。

 

次はデメリットです。

デメリット

①高い

まあ言わずもがな初期投資としてはかなり高いです。一般的なスクリーンの価格と比べると本当に10倍します。ただまあスクリーンってみなさんが想像してるほど価格は高くありません。一般的なスクリーンであれば私のいる映画館でも50~70万ぐらいです。当たり前ですが、スクリーンの大きさで値段は変わります。エキスポとかの大きなIMAXとかはちょっとシャレにならない価格じゃないですかね多分。

そこに張り替え工賃が乗ってきます。

 

 

②納品に時間がかかる

海外メーカーあるあるなんですが、船便とかでくるのでとても納品に時間がかかります。しかもスクリーンの大きさはオーダーになるので、受注生産というのもあり3~4か月余裕でかかります。日本のメーカーとかであればこんなにかかりません。

あと対応が日本の文化と違いますので、わりとラフです。納期たぶんこんぐらいだよ!!みたいな感じです。施工日が決められないで大変だった、、、

 

③生地が超柔らかい

 これはデメリットという感じではないのですが、生地がものすごく柔らかいです。指でつねってビョーンって伸びるぐらい。普通のスクリーンは硬くて重いのですが、スチュワートさんは柔らかい上にちょっと軽いんですよね。

ただこれが問題で、私のいる映画館は太鼓張りと湾曲スクリーンになっており、皺を伸ばすのに折り返して引っ張らないといけません。しかも大きさに対して過度すぎる湾曲によって、あっちこっち要らないテンションがかかってしまうので、大変相性が悪い。

柔らかい上に余計なテンションがかかるので、最初に導入した時は貼り終わった数日後に何か所か破れました。補修のたびに泣きそうでした。

だから本当に触ると破けます。下手したらサブウーファーの振動で破けるかもしれない

平面のフラットスクリーンの劇場であれば全く問題ありません。

 

とまあ思いつくメリットデメリットはこんな感じです。

メリットの方が個人的にはとても大きいかなと思います。実際お客さんからとても好評をいただいているので、商売的にも売りとして良い宣伝になるのではないかなと思います。

 

総評として、みんなスチュワートいれようぜ!!!

って思うぐらい品質の向上が望めます。

 

ではまた

 

映画館でスタジオジブリの作品を観るべき理由がある

www.ghibli.jp

こんにちは、コロナのせいで大変な映画館業界ですが、もう1ヶ月ちょっとぐらい前から、スタジオジブリの伝説的な作品を映画館で観る事ができます。もうすぐ終わってしまうこの段階で言うのもなんですが、今絶対に映画館で見るべき作品たちだと個人的には思っています。

 

観るべき理由ですが、

1、スタジオジブリの旧作が全国的に上映される事は本当にレアケース。

2、アニメの枠を飛び越えて、クオリティが今でも邦画で最高峰の映画。

3、映画館のスペックが試される。

 

単純にどちゃくそ面白いとか、ジブリというか宮崎駿監督が天才すぎて震えるとかそいう一般的な意味でも観て欲しいですが、映写としての理由を3つに絞ってプレゼンしようとおもいます。

 

スタジオジブリの旧作が全国的に上映される事は本当にレアケース。

一つ目のジブリ作品が上映される事がレアケースだという事ですが、営業ではないので正確な理由はわかりませんけど、このコロナ騒動で新作映画の制作が軒並み止まってしまっているからなのか、東宝が映画館への客足を戻すためだか維持するためなのか、新作までのツナギとして最強のカードを切ってきたなという所感です。

 

基本的にジブリ作品て、調布とかの特別なイベント上映とかでなければ上映されないのです。最近は国外で良く上映されているそうですが、普通の映画館がちょっとやりたいからって理由で上映はほぼ無理みたいです。

ジブリの旧作、それもスーパー伝説的な「もののけ」「千と千尋」「ナウシカ」「ゲド」を映画館で観るという体験ができるのは、色々な映画史上最高の名作と言われる旧作映画の映写をちょこちょこさせて貰っている私ですら次は無いかもしれないってぐらいレアです。

 

アニメの枠を飛び越えて、クオリティが今でも邦画で最高峰の映画。

これは制作側の人じゃないので、見る側の主観になってますがご容赦を。

ちょっと悲しい事なんですが、ジブリの作品は今の邦画と比べてもクオリティが上位に来ると思っています。脚本とか構成とかそいうのは好みもあるので置いておきますが、音と画の単純なクオリティだけみても今でもこのレベルに匹敵できる作品はほぼ存在しないと思います。特に、同じ土俵のアニメ映画であるなら肩を並べられるのは京アニ作品ぐらいじゃないでしょうか。

 

具体的にどこを見てそう評価しているかという話をします。

全部書くと、疲れるし長いのでちょっと簡単にまとめます。

 

まず、

音の録音がとても綺麗です(時代的な古さやSNの悪さはあります)。ダイナミックレンジも本当の意味で広く、小さい音が小さく、大きい音が大きい。何を聞かせたいのかはっきりしていて音の作りが丁寧。

音楽や効果音がセリフやストーリーの邪魔をしない。サラウンドがとって付けたようなエフェクトではなく、元の意味である空間の表現をしっかりしている。

ちょっと流行りもあるので、上記を一概に指標にはできない部分もあるのですが、映画を観るという上で個人的に一番大事に思っている事なので、音が凄く良いと言いきって良いと思いました。

 

次に、

色の使い方がザ・ジブリカラーといわんばかりの素晴らしい色と超絶作画と構図で、これも空間や心情の描写を感じさせる凄い画です。アニメだからではと思うかもしれませんが、実写でも色や構図って大変重要で、ちょっと以前にバズってた映画の色の話とかを観て貰うと分かりやすく、大切さがわかるとおもいます。

www.youtube.com

まあ、画については私があーだこうだ言わなくても、作画がヤバいはジブリの代名詞的な部分もありますしわかっていると思います。あとツイッターとかで絵のプロの方々がどこがヤバいのかもっとロジカルに分かりやすく解説しているので、検索してみてください。

 

映画館のスペックが試される。

映写として一番話したかった項目ですね。

さっきのクオリティの話の続きにもなるんですが、これも音と画に分けて話します。

なるべく簡単に書くよ!

 

まず音です。

ナウシカは当時のMONOをそのまま踏襲して、デジタル上映ですがCchオンリーの音源です。よくある2chMONOと言われるLRchに同じ音を出すMONOではなく、ほんまもんのCchだけの音になります。しかし、ナウシカの音はCchだけなのに奥行と立体感を感じる音がはいっているので、程度の低いスピーカーシステムを使っていると、その立体感が表現できず、薄っぺらくなります。それと、昨今のマルチチャンネルを想定した劇場では再生がとてつもなく難しい作品と言えます。

もののけ姫は5.1chですが、先ほども言った通りダイナミックレンジがとても広い作品で、音が豊かです。とくに個人的にここだ!!って思ったのはモロの声。

美輪さんの黙れ小僧!のあたりで、最初のアシタカとの会話のさとす様なささやきボイスの様な声の時の息遣いまで含んで聞こえる艶めかしさからのあの笑い声、これはニアフィールドモニタースピーカーレベルとかじゃないと難しい表現だと思います。

 

そして千と千尋の神隠し

これぶっちゃけエンドロールの再生が鬼難しいです。ここ数年で、一番嫌だったかも、、、

何故でしょうか、ランラン~ホホホホ~というところ以外はL,C,Rのメインスピーカー3chにボーカルが同じぐらいの信号レベルで居ます。

これの何で難しいかというと、簡単にいうとLCR全てのスピーカーがまったく同じ音響特性でないと完璧に鳴らすは成立しないんです。これは面白いので近いうちに別の記事にしようと思います。

 

 

ちょっと話は逸れますが

千と千尋ゲド戦記の二つ、これは当時ドルビーデジタルEXサラウンドという6.1chの上映です。

デジタル上映では5.1chデータとしてきているのですが、実はプロセッサー側のEXサラウンドモードを使う上映も想定されているそうです。

 

どちらで上映しても全く問題ないのですが、せっかくなので聴き比べてみました。

なんか6.1chのEXサラウンドモードで聞いた方が音質が柔らかくなったうえにサラウンド感の良さが上がった気がする!!!(プラシーボかもしれないし、音質が変わるはちょっとよくわからないのですが、たしかにそう感じました)

ただ、これは普通の劇場ではあまり使われない機能であり特殊ですので、Exだから凄いとかそいう事はありません。断じて。

千と千尋ゲド戦記は、ナウシカもののけより新しい作品になりますので音も新しい感じです。マルチチャンネルの再生がとっても映える作品です。

 

つぎに画ですが、

アニメ作品の怖いところの一つなのですが、実写以上に発色がとてつもなくプロジェクターの状態に影響します。

プロジェクターの色調整が甘いと上手く色がでませんし、画の部位で色が変わってしまって、全体で正確な色がでません。

 

SXRDというソニー製プロジェクターの話になりますが、SXRDの画は3段階のグレースケールで色の状態が確認できます。それで、例えば中間色だけ色が崩れるとかもあり、知らなければ気にならない事の方が多いのですが映画館としては致命的な状態です。

色味にかんしては逃げになるのですが、直すのにコストと時間が凄まじくかかる作業なので、劇場側も正直ちょっと妥協している事も多いです。

 

ジブリの作画はすさまじく繊細なので、ちゃんとしたプロジェクターとそうでないので観るのとでは、印象が全く変わります。

安定して勧められるのはドルビーシネマの劇場であればとりあえず今の所問題なく観れるとおもいます(全部回ったわけじゃないので断言はできません)

 

長くなりましたがとりあえず、めちゃくちゃ上映するのが難しい4作品だってことです。

 

 

そんなこんなで色々な意味でジブリ映画は映画館で見て欲しい作品ですので、コロナの事情もありますが、エチケットと劇場のコロナ対策のルールを守って是非に最寄りの映画館でご覧になってくださいませ。