映写雑記

映画館の設備視点

映画館の音の心臓「CP650」を解剖してみた ハード編

 

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CP650

こんにちは、今回は映画館の音の心臓ともいえるCP650。ちょっと怪我をしたために部品どりとしてストックしてある子を解剖してみたので、観察日記にしてみようと思います。

個体によって、積んでいるオプションボードが違って結構中身が違うので観察して面白い子たちだと思います。

 

ハード編では、プロセッサー自体を解剖してみて観察します。

ソフトウェア編では、プロセッサーに電源をいれて操作してみたり、PCをつないでみて観察します。

二部構成です!

 

CP650とは何か

そもそもCP650って何ですかって話だと思います。

CP650とはドルビー社が発売していた、映画館用のサウンドプロセッサーです。

もう販売もサービスも終了しており、古いプロセッサーとなりますが、現役な映画館も多いとおもいます。私のいる映画館でも現役で動いております。

 

現行機種はCP950という3世代ほど進んでいます。何故そんな古いプロセッサーを現在も現役で使用しているかという話になりますが、実は35mmフィルム上映ができるプロセッサーとしては最終モデルで、35mm上映するのに必要なのです。CP650の次の世代であるCP750から35mmフィルムの上映ができなくなります。

 

古い機体ではありますが、35mmも扱えて、一台で7.1chまで対応できるプロセッサーとして優秀なシネマプロセッサーです。

音は現行機種の方が良いのですが、650も悪くはないです。

 

とりあえずバラしてみよう

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フロントパネル

フロントパネルです。

右側のボタンでどの音声出力をするかを設定とチョイスできるようになっています。 

 

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フロントパネル2

このフロントパネル開けたところにある右上のネジ一本だけはずすと前面がパカっと取れます。

R232CでPCを繋いだり、オシロスコープつないだり測定マイクを繋いだりして調整用途がメインです。SNが出てますがまあ時効でしょう。

 

 

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フロントパネル3

ちょっと古いメカな感じがして一気にワクワクする気持ちが湧いてきます。

 

 

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CP650の中身

さらにパネルがネジでとまっていて、ケーブル二本が刺さっているだけなので取り外すと、このような感じでボードと電源ユニットの部屋が出てきます。

 

 

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ケース内の電源ユニットスペース

簡素な作りですが、エアフロよさそうで熱害は起きにくそうですね、シンプルイズベスト

左側のボードのスペースにもエアーが流れる作りになっています。

 

  

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マザーボードとかオプションボード?

ボード類はPCのメモリーみたいにボードの左右についてるつまみを起こすと引っこ抜けるようになっています。

 

 

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Cat772B

まず下段のボードさん、Cat772Bと書いてあります。

Analogue I/O and bypass circuit boardとあるので、まあ多分アナログのインプットとかそいうの担当しているのでしょう(アバウトすぎる)

 

 

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Cat774A、Cat773、Cat790、Cat797

次は上段のボードです。いっぱいボードがついています。

ここで、アドバイザーとして月夜野さんにヘルプを出しましてどんなボードなのかちゃんと聞きました。ボードの名前だけだと多分そんな感じなボードとしかわからなかったので。

 

写真左側のCat790

SRD-EXのデコーダーボードです、6.1chするのに必要ですね。

そして、AESでデジタルインプットするためのボードも兼任していて、今ではこっちの方がメインの使われ方です。7.1chも対応できます。

写真右側はCat773

ドルビーデジタルデコーダーだそうです。

SRDするのに必要って事でしょう(聞き損じた)

月さんありがとうございました。

 

 

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Cat774A

上二枚を外すと、Cat774AとCat797がでてきます。

Systems controller boardと書いてあるので、おそらくマザーボードみたいなものだと思います。

右側のバーコードがついてるシールが貼ってあるところがちょっと浮いていて、CPUみたいな足がいっぱいついているボードになっています。Cat797-1です。

Flash ROM boardとかいてあるのでFROMなのでしょう。

774Aの右上にボタン電池があるのでBIOSのようなもののバックアップがされているという事だと思いますが、この子死ぬとデータ飛ぶのでは、、、?定期的に通電しなければダメかしら。

 

 

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電源スペース

天板を外して電源スペースもみてみました。

なんか左側のBYPASS FUSE F2ってかいてあるところ膨らんでませんかね?コンデンサみたいなのだったら怖いですね。

シンプルですね。

 

 

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上から

全部戻して上から撮影してみました。なんかオーディオアンプでよくある写真ぽいですね。

 

 

 

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日本語マニュアル

ちなみに、箱の中もう一個箱があって中にマニュアルが入っていました。

知らなかった、、、今まで下の写真の英語のマニュアル(インストールマニュアル)読んでました。載ってる事は一緒ですが、要所を抜粋されてちゃんと日本語訳されている、、、!多分こんな事が書いてあるとか結構アバウトに読んでたところがちゃんとわかりました。く、くやしい。(英語版の薄いユーザーマニュアルもあります)



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インストールマニュアル



あとバックパネルを載せてませんでした。

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バックパネル

映写機についているサウンドリーダーからのインプットや、音のインプット、アンプなどに繋がるアウトプットといっぱいついてます。遠隔操作ようのコネクタもあります。最近のCP850とかはHDMIやLANもついていますね。

 

ちゃんと最後は元に戻してあります。バラし道は元に戻すまでがバラし道です(キリッ

 

本当にただバラしただけでした。けどとっても可愛い子ですね。

ハード編はこのあたりでしょうか。

次はソフト編をやりたいと思います。その前に何か別のネタを挟むかもですが。

 

ではまた

 

追記

月さん「え、てかブログ読んだけど、その持ってるInstallation Manualに全部書いてあるよ?」

私「え?....(パラパラとめくる)...ほんまや!!!!」

あんまりちゃんと読んでない事がバレた時でした。

映写スタッフ的におすすめ映画 その1 フォードvsフェラーリ

はいこんにちは。

今回は映画館スタッフが勧める映画というのは良くあると思うのですが、ちょっと視点を変えて映写としてのオススメする映画をピックアップして、なぜそれがオススメなのかを映写視点で解説という名の布教をしていきたいなと思います。

 

 

youtu.be

普通、オススメとか言うなら新作すすめない?って思われると思うんですが、新作じゃないです。今年の年始に上映していた映画です。今映画館で観れないですすみません(どこかで上映しているかな?)。

フォードvsフェラーリ

という映画です。

レースの中でも最も有名なレースの一つ、ル・マン24時間レースを題材にした映画で、ル・マンの数あるストーリーのなかでも、GT40というめっちゃかっこいいアメリカの伝説的レースカーが活躍するちょっと昔の実話です。

 

話がめちゃくちゃ私のツボを全て網羅しているので、話だけでもオススメしたいのですが、音と画づくりがとても映写が試されてるなって震える作品です。

 

なのですが、年代を表現したいためかちょっとセピアっぽい?褪せた感じの色味です。専門用語はわかりませんが、パキっとした色ではありません。

そして、明るいシーンが多いです。このような、色が浅めで明るいシーンはプロジェクターの状態がとても試される画となります。

 

SXRDという私が使用しているプロジェクターでの話になるので、DLPはちょっと分からないのですが。

このタイプの色味は、プロジェクターの色の調整が狂って表面に出てきやすい赤や緑といった色が中間色等に悪影響を及ぼしやすく、プリズムという機構のヘタリだったり、ユニフォミティの調整がずれてきている時の影響をもろに受けてしまいます。

 

あと、物が速く動いているているシーンが多いので、SXRDの描画がもっさりしたプロジェクターだとはっきり苦手だなーと感じます。

しかし、きっちりセッティングをだせば、浅い色のうえに少しの絶妙な立体感とSXRD特有かなと思っているちょっとした温かみのある色というか描画の綺麗な映像を観る事ができます。

かなりの数が全国で導入されているソニーのSXRDプロジェクターですが、良い条件で稼働しているプロジェクターは少ないと思います。

 

それとこの映画に限ることではないのですが、やはり劇場の迷光が多いと、ちゃんとした色として発色し難い画の一つです。

 

ホームシアターのプロジェクターでもちょっと難儀するんじゃないかなーと思っています。

 

続いてですが、

この映画に限らず、車の音というのは録音からして難しく、再生するとなるとさらに難しい部類の音になります。

何故かというと、パルスのような瞬間的な爆発音の音が車の音ではメインで多いので、まずこの世界に現存するスピーカーユニットがそのオリジナルの音に追いつけません。

しかも排気音などは低域がメインだと勘違いされやすいですが、高い帯域が全て同時に発音しなければちゃんとした排気音にはなりません。それもかなりの大振幅の音波をもって耳に届いてこその車の音です。なので実車と比べるとどうしてもちょっとボヤケた音になります。

実車のレースカーやチューニングカー、スーパーカーの音を聞いた事ある人なら言われると、ああ確かにって思ってもらえると思います。

 

それを上手くちょっと嘘ついてる感じでリアリティある音になっちゃってるのがこの映画ですね。いや狙ってるのかはわかりませんが、そう感じました。

 

タイヤのスキール音とかも似たような理由でかなり再生が難しいのですが、良くそれっぽく入れてるなって思います。音から路面温度を感じさせるタイヤの走行音も素晴らしいです。これらの音全て、スピーカーの質が物を言います。

 

コーナー侵入の音だけで、いま前荷重でノーズが少しインに向いていっている、、!という感覚が伝わってくる感じと画もそれをしっかり表現してくれているので、車好きは脳汁が止まらないと思います。

 

そして演出上の音の引きもあり、箱の残響特性が試される。さらに、サラウンドの繋がりが甘い劇場がすぐ分かります。元が綺麗なつながりのサウンドミックスほど、少しの甘さで上手く繋がりません。

 

それとクリスチャンベールがちょっともごもごした声なんですよね、これも綺麗に再生するには難しい音です。

 

以上の事から上映するにはかなりの度胸が必要な映画で、冷や汗いっぱいかきました。

 

5.1ch以上のホームシアターを組んでいる人は是非、BD等でマルチチャンネルでの再生をしてみてください。ステレオのシステムでも細かい音の再生が難しので、全てのホームシアターの腕試しに最適なソフトだと思います。

この映画で味噌なのは大きい音が出るかではなく、レースのリアリティがある音が出せるかが評価の味噌かなと個人的には思っております。

 

 

...再生難しいよっていう内容になっちゃいましたが、難しい方が再生してて楽しいじゃん?的な感じでオススメって事で...お願いします。

ではまた。

映写のお仕事を解説するよ

こんにちは、今回は映写のお仕事ってどんなお仕事なんですかってよく聞かれるので、私のいる映画館での映写のお仕事って何をしているのかを紹介しようと思います。

写真をつけたかったのですが、どうしても社外秘の部分がかかってくるので写真にしにくいため今回は文だけです、味気ないですがすみません。

 

まずお仕事の紹介をする前に、簡単に私の考えを書いておきます。

今、映写技師と言われる人は少ないですし、私自身は映写技師と思っていません。映写担当です。便宜上で映写技師と紹介する事はありますが、技師と言えるほど技術をもっていません。

本物映写技師さんは本当に凄いです。何人か知っていますが、某映写室からのつぶやきの管理人のあの方とか本物の映写技師だなって思います。いやマジで敵わない。。。

なので映写技師のお仕事ではなく、映写のお仕事なのです。

 

さてちょっと説教じみた事を書いてしまいましたが、紹介と解説をしていこうと思います。

 

ちなみに、映写のお仕事って映画館によって業種が違うのかってぐらい十館十色です。

なので、あくまで私のいる映画館での話になります。

 

映写のお仕事 映写の日常編

1、オープンとクローズ

どんなサービス業もそうだと思いますが、とても大事な作業だと思います。

その日1日安全に営業できるように、上映に関連する機材たちを入念にチェックしながら電源をいれていき、上映の準備をしていきます。その日の営業が終わったら、後ほど紹介する営業後の作業がある場合以外は、丁寧に電源を落としてクローズしていきます。

 

2、コンテンツ管理

以前であれば35mmフィルムでの在庫管理でしたが、今はHDDや、USBフラッシュメモリがメインで、取り扱う映画の上映素材を管理しています。

映画の入ったHDD等が配給様から送られてきますので、データは劇場の大きなサーバーに移して、HDDは万が一のデータトラブルのバックアップのために一時預かりしていたり、他の映画館様に宅急便などで発送したりします。この流れは35mmフィルムでも一緒で変わっていませんね。

まだたまに35mmを上映したりするので、そのフィルムも預かり保管したりしています。

めちゃくちゃルーチンワークになるのですが、信用問題やコンプラ、上映の可否などが絡んでいて、とても責任重大な作業です。

 

3、上映の確認

主に、上映開始、上映中、上映終了時の3パターンで上映中の確認をします。

まあ、ちゃんと上映できるかなできたかなっていう確認です。

安全に上映するためにこれもとても大切な作業です。

 

4、プレイリスト、上映スケジュールの作成

SPLと言われるプレイリストと、何時に何処のスクリーンで何の映画を上映するのかというスケジュールの作成をします。

この辺はデジタル映写!って感じの作業です。

SPLでは、予告編と本編を組み込み、場内の電気やらプロジェクターの制御やらのキューをセットしていきます。

結構、気に入ってる人も多い作業で、予告編の編成って配給の指示がなければこの時の担当者の好みで決まります。担当の好きな映画も絡んでくるので某戦車道のあの事件みたいな事がたまに起きたりしますすみません。

このプレイリスト作成にあたる作業を35mmでは編集作業と呼んでいます。

 

上映スケジュール作成とは、映画館の番組担当が決めた上映作品のだいたい1週間のスケジュールをもとに、オートメーションで上映するためにセットしていきます。まあミスったら大変なトラブルになるので、ここもかなり慎重な作業です。

 

番外編

最近は、トークショーなんかのイベントが多いため、マイクとか出囃子のセッティング、イベントのオペレーションもやります。最近私は、日中のオペレーションに参加してないので、今では後輩たちのほうが上手かったりしますね。PAさんかな?

 

 

映写のお仕事 営業時間外編

1、試写テスト

映写のお仕事!って感じでもあり、役得なお仕事の一つですね。

フィルムとデジタルでは見るところが変わってきますが、上映が問題なく行えるかというチェックとなります。

デジタルって必要あるの?という疑問もたまにもらいますが、結構再生トラブルを起こすので、ここで確認を絶対にしておきたいところです。

フィルムに関しては、やはりアナログ的な映写になるので、デジタルとは違う物理的な動作チェックと映写機のセッティングをメインで行います。

 

それとこの試写テスト時に上映ボリュームを決めます。

このボリュームに関しては界隈でよく話題になることなので詳細は別の記事にしようと思っています。

なので簡単な説明になりますが、理屈上で言えばボリュームは固定で問題ないはずなのですが、ダメですね。固定でできません。必ずチェックします。

それと、その延長で、音の調整が必要かどうかの判断をします。必要だなって思ったら、3の作品ごとの音響調整の項目を行います。

 

映画をお客さんに出す前に劇場を独占してみる事ができる本当に役得な仕事です。

 

まあやっぱりなんだかんだこの試写テストが一番好きですね。

それに何度も映画に助けられたという経験をしています。

 

 

2、設備チェックとメンテナンス

スピーカーがとんでないかとか、アンプが死んでないかとか、映写機は問題ないか映写窓まだ綺麗?とかをとにかく思いついた箇所をあの手この手でチェックして直せるところは自分たちで直します。

試写テストと同時進行で行う事も多いです。

映写機であれば清掃やオイル交換、油をさしたり。デジタルとアナログサウンドヘッドの読み取り調整をしたり。

プロジェクターであれば色味のチェックをしたり輝度調整ですね。画角調整とかもたまにします。

 

あとは季節によってちょっと音関係にちょっと手をいれます。最近はsmaartとかを覚えてきたので、そんなFFT測定のツールをつかったりしてますが、測定で見えない部分もあるので結構聴感作業になります。

音って温度や湿度、お客さんの着ている服で変わってしまうので、やはり季節によってちょっと変えたいですね。

 

3、作品ごとの音響調整

まず最初にいうと、普通の映画館はしません。というか本来必要ないのです。作品は製作者が作ったままを提供するのが映画館の仕事の一つです。

 

これもどちゃくそ言いたい事が多いので別記事にしますね。

一応ちょっと言っておくと、なるべく本来の音に近づけようとしています。それと設備の保護があったりします。

そのために、いろんな方に無理を言ってスタジオを見学させてもらったり、作ってる環境を見せてもらったりしています。まあ余りにも難しい事なので理想通りには出来ませんが、目指すところはそこです。出来るかどうかよりやってみるって感じです。

 

4、爆音上映なんかの音響調整

たぶん、みなさんが一番興味あるところじゃないですかね。

作品ごとの音響調整の一つでもあるのですが、エンターテイメントに極振りした調整作業です。

私のいる映画館が他の映画館と大きく違うのは、日本を代表する超凄い音響エンジニアの方に来ていただいて調整をしてもらっている事でしょうか。このクオリティを出すにはやはりその道のプロになっても難しいですし、今の私には難しいですね。

でもいつも後ろで勉強させてもらっています。

本当は私もやりたい

 

そんな中、岩浪音響監督とかはたまに私を使ってくれるのでとてもその時は嬉しいです。感謝しかありません。力みすぎて空回りしちゃう事も多いですが、(表に出す前のBLAME!とかはやりすぎた)作った人と一緒になると作品を変えてしまうのではという不安が無く楽しく作業ができるのが強みです。

 

さて、今回も長文ですが、これでもだいぶ簡略化しました。文章構成力の問題です、、、

細かい事はもっとありますが、今の私のいる映写のお仕事って大きく分けるとこんな感じですね。

 

ではまた。

 

めちゃくちゃ高いスチュワートのスクリーンって映画館で使うと実際どうなの?

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2劇場分のスクリーン

こんにちは、さっそくですが、上の筒はスクリーンです。劇場用スクリーンはだいたい筒にミルフィーユのように緩衝材を挟みながらまきまきされて運ばれてきます。

ホワイトスクリーンでは折りたたまれてる場合もあるそうです。

 

今回はスクリーンの高級ブランド的なスチュワートというメーカーのスクリーンについて、導入から使用感、メリットデメリットを綴っていこうと思います。

 

スチュワートスクリーンの仕様

このスクリーンのスペックです。

Specs

Material Type Flexible Front
Maximum Size 40'(h) 90'(w)
Peak Gain 1.0
Half Gain Lambertian
Ambient Light Rejection Value 15%
Ambient Light Resistance N/A
Minimum Throw Distance 0.3 x Image Width
Edge Blending Properties Excellent
Passive 3D use No
Lay Flat Quality Excellent
Flame Resistance Yes
Can be Perforated Yes

 

あんまり普段こいうの見ないので、正直アバウトにしかわかりません。エクセレント!っていってるのでたぶんすごく良いんでしょう。

リンク先の視野の入射角に対するゲインの図もたぶん大事な図なのかなって思います。

https://www.stewartfilmscreen.com/en/materials/snomatte-100

 

スクリーン張替えの前準備

主にスクリーンの導入で必要とされるデータでは、スクリーンゲインが重要になります。上の図だとpeakgainの所です。

1.0というのはホワイトスクリーンでは普通です。

この数値をもとに導入前にシミュレーションを行い、投影時に必要な輝度を保てるかという計算をするんですが、ビスタサイズは問題なかったのですが、ㇱネスコサイズの時、ランプを大きくしてさらにパワーを最大にしても輝度の値が基準値をクリアしてはいるけど、上のマージンがとれないぐらいギリギリでした。

数値でいうと14ftLが基準値で、シミュレーション上はランプパワー最大の100%で15.4ftLという結果に。

 

え、うそでしょ。って思ったんですけど、どうも映写距離とスクリーンの大きさの関係でそうらしいです。

 

ちょっと落胆したんですが、ホワイトスクリーンに拘りたかったのと数値的にはまあ基準値をクリアはしてあるので、OKいきましょうと。ただこの後ラクルな事が起きるとは誰も思ってませんでした。

 

ちなみに、既存だったスクリーンはハークネスのクララスという当時最新だったシルバースクリーンです。シルバー塗料の結晶を工夫する事によって、パールホワイトのような質感で映像が観れるというのが売りでした。

えぇ、二度と使いません。シルバースクリーンとしてはかなり良いスクリーンだったのですが、耐久性が度し難いほどに低かったです。使用環境でもこの辺は変わるのですが、私のいる映画館では全然塗膜の状態が持ちませんでした。

 

スクリーンを貼ってみた

コロナでちょっと遅れてしまいましたが、先日、張り替えが完了をしました。いろんな人たちに頑張っていただいたおかげで無事に収める事が出来ました。

 

映像をみた感想を言います。

 

最高ですね。

 

映像みて感動したのは久々でした。

 

さて、先ほどのミラクルが起きたという話です。

シミュレーション上では輝度があんまり取れないという感じでしたが、なんと実測したら、ランプパワー50%ぐらいで必要な14ftLをこえてしまいました。

 

スチュワートのスクリーンゲインって、実は詐称してない?って思うほどにめっちゃくちゃ明るいです。某車メーカーみたいなスペック逆詐欺するんですかね?

 

それと映像の色の調整をしてもらったプロジェクターメーカーのいつもお世話になっているベテランのYさんが、この仕事してきた中で一番綺麗に色がでてるかもしれないみたいな事を漏らすほどに凄く良い状態です。

 

この段階で、私は高いスクリーンだけあって素晴らしいな。と満足しました。

 

スチュワートスクリーンのメリットデメリット

さて、これが初のスチュワートのスクリーンの導入ってわけではないので、今回の張替えと合わせて以前から使用している同じスクリーンを3年ほど使っての使用感です。

まずメリットです。

 

メリット

①映像がとても綺麗

何故かスペック上、他のメーカーと大差はないのですが、素晴らしく綺麗に映像のノリがいいです。あとランバート反射なのでどの角度からみても綺麗な画が観れます。これはいろんな角度から見る客席というものがある映画館ではとってもありがたい事です。

あまり馴染みは無い事だとと思いますが、スクリーンの投影というのはかなりの色の変化が観る角度によっておこります。

それとシームレススクリーンなので、普通は巨大なスクリーンって一枚の生地ではなく、短冊上に何枚もの生地をつなげてあります。

スチュワートは本当の一枚ものの生地で作っており、生地のつなぎ目が全く見えないのでとても綺麗に投影ができます。工程的に凄く設備と手間がかかるので値段が高い理由の一つです。

最近のスクリーンは技術力があがってほぼ見えないのですが、見慣れてる人たちがスクリーンを観ると繋いであるポイントが結構みつけられます。

 

あとサウンドフォールという、映画館のスクリーンは音を通すために穴が開いてるのですが、処理の問題なのですかね、同じぐらいの大きさと穴の量のスクリーンと比べてもなんか目立ちにくい気がします。

 

②明るいためランプパワーが抑えられる

本当に1.0ですか?ってぐらい明るいので、ランプパワーを抑えながらも余裕のftL を叩きだせる。

映写機もプロジェクターもランプの使用時間てのは決まっていて、ランプの大きさでも変わってきます。基本的にランプが大きい方が使用時間が短くなり、どいうわけか不安定になりがちです。小さいランプの方が長寿命で安定して運用できます。

そして、運用時のランプパワーを抑える方が安定して長時間つかえます。

 

例えば、3kW球と言われる大きさのキセノンランプは1000時間で交換しなければいけないのですが1000時間は安定して使えるというものになります。しかし、ランプパワーを最大で使うと、1000時間使う前にフリッカーといわれる点滅現象やら点火不良がおきやすくなります。経験だと600時間ぐらいでダメになる物もありました。

 

つまりランプパワーを上げつつ運用すると、単純にランニングコストがとても上がってしまうのです。電気代もかかるしね。

このスクリーンを使うとランプパワーを抑えつつ高クオリティの映像をお届けできるので長期的にみればコスト減の効果があり、お客さんも大満足な感じですね。

 

まあ、レーザープロジェクターになるとあんまり関係なさそうなんですけど、、、

 

③音の抜けが凄く良い

これ!凄く抜けが良くなります!!

Bチェーン(映画館での劇場の音響調整)をやり直さないと行けないぐらいに抜けがよくなります。

他社と比較しても、サウンドフォールの大きさが特別大きいとかそいうのは見当たらないのですが、なぜか抜けが良いです。生地の問題でしょうか?

 

④時期やロットによってのばらつきが少ない

導入事案があまり多くないので私の経験上の話だけになり、もしかしたらあるかもしれませんが、スチュワートは品質のバラつきが無いように感じます。

スクリーンて同じメーカーで同じ品番のスクリーンを買っても、時期と生産工場によって品質が大きく変わります。業界間で、今某メーカーは買わない方がいいとか言われるぐらい質に差が出ます。

 

⑤匂いがいい

いやこれは個人的なものなのですが、ちょっと甘い匂いで好きです。

 

次はデメリットです。

デメリット

①高い

まあ言わずもがな初期投資としてはかなり高いです。一般的なスクリーンの価格と比べると本当に10倍します。ただまあスクリーンってみなさんが想像してるほど価格は高くありません。一般的なスクリーンであれば私のいる映画館でも50~70万ぐらいです。当たり前ですが、スクリーンの大きさで値段は変わります。エキスポとかの大きなIMAXとかはちょっとシャレにならない価格じゃないですかね多分。

そこに張り替え工賃が乗ってきます。

 

 

②納品に時間がかかる

海外メーカーあるあるなんですが、船便とかでくるのでとても納品に時間がかかります。しかもスクリーンの大きさはオーダーになるので、受注生産というのもあり3~4か月余裕でかかります。日本のメーカーとかであればこんなにかかりません。

あと対応が日本の文化と違いますので、わりとラフです。納期たぶんこんぐらいだよ!!みたいな感じです。施工日が決められないで大変だった、、、

 

③生地が超柔らかい

 これはデメリットという感じではないのですが、生地がものすごく柔らかいです。指でつねってビョーンって伸びるぐらい。普通のスクリーンは硬くて重いのですが、スチュワートさんは柔らかい上にちょっと軽いんですよね。

ただこれが問題で、私のいる映画館は太鼓張りと湾曲スクリーンになっており、皺を伸ばすのに折り返して引っ張らないといけません。しかも大きさに対して過度すぎる湾曲によって、あっちこっち要らないテンションがかかってしまうので、大変相性が悪い。

柔らかい上に余計なテンションがかかるので、最初に導入した時は貼り終わった数日後に何か所か破れました。補修のたびに泣きそうでした。

だから本当に触ると破けます。下手したらサブウーファーの振動で破けるかもしれない

平面のフラットスクリーンの劇場であれば全く問題ありません。

 

とまあ思いつくメリットデメリットはこんな感じです。

メリットの方が個人的にはとても大きいかなと思います。実際お客さんからとても好評をいただいているので、商売的にも売りとして良い宣伝になるのではないかなと思います。

 

総評として、みんなスチュワートいれようぜ!!!

って思うぐらい品質の向上が望めます。

 

ではまた

 

映画館でスタジオジブリの作品を観るべき理由がある

www.ghibli.jp

こんにちは、コロナのせいで大変な映画館業界ですが、もう1ヶ月ちょっとぐらい前から、スタジオジブリの伝説的な作品を映画館で観る事ができます。もうすぐ終わってしまうこの段階で言うのもなんですが、今絶対に映画館で見るべき作品たちだと個人的には思っています。

 

観るべき理由ですが、

1、スタジオジブリの旧作が全国的に上映される事は本当にレアケース。

2、アニメの枠を飛び越えて、クオリティが今でも邦画で最高峰の映画。

3、映画館のスペックが試される。

 

単純にどちゃくそ面白いとか、ジブリというか宮崎駿監督が天才すぎて震えるとかそいう一般的な意味でも観て欲しいですが、映写としての理由を3つに絞ってプレゼンしようとおもいます。

 

スタジオジブリの旧作が全国的に上映される事は本当にレアケース。

一つ目のジブリ作品が上映される事がレアケースだという事ですが、営業ではないので正確な理由はわかりませんけど、このコロナ騒動で新作映画の制作が軒並み止まってしまっているからなのか、東宝が映画館への客足を戻すためだか維持するためなのか、新作までのツナギとして最強のカードを切ってきたなという所感です。

 

基本的にジブリ作品て、調布とかの特別なイベント上映とかでなければ上映されないのです。最近は国外で良く上映されているそうですが、普通の映画館がちょっとやりたいからって理由で上映はほぼ無理みたいです。

ジブリの旧作、それもスーパー伝説的な「もののけ」「千と千尋」「ナウシカ」「ゲド」を映画館で観るという体験ができるのは、色々な映画史上最高の名作と言われる旧作映画の映写をちょこちょこさせて貰っている私ですら次は無いかもしれないってぐらいレアです。

 

アニメの枠を飛び越えて、クオリティが今でも邦画で最高峰の映画。

これは制作側の人じゃないので、見る側の主観になってますがご容赦を。

ちょっと悲しい事なんですが、ジブリの作品は今の邦画と比べてもクオリティが上位に来ると思っています。脚本とか構成とかそいうのは好みもあるので置いておきますが、音と画の単純なクオリティだけみても今でもこのレベルに匹敵できる作品はほぼ存在しないと思います。特に、同じ土俵のアニメ映画であるなら肩を並べられるのは京アニ作品ぐらいじゃないでしょうか。

 

具体的にどこを見てそう評価しているかという話をします。

全部書くと、疲れるし長いのでちょっと簡単にまとめます。

 

まず、

音の録音がとても綺麗です(時代的な古さやSNの悪さはあります)。ダイナミックレンジも本当の意味で広く、小さい音が小さく、大きい音が大きい。何を聞かせたいのかはっきりしていて音の作りが丁寧。

音楽や効果音がセリフやストーリーの邪魔をしない。サラウンドがとって付けたようなエフェクトではなく、元の意味である空間の表現をしっかりしている。

ちょっと流行りもあるので、上記を一概に指標にはできない部分もあるのですが、映画を観るという上で個人的に一番大事に思っている事なので、音が凄く良いと言いきって良いと思いました。

 

次に、

色の使い方がザ・ジブリカラーといわんばかりの素晴らしい色と超絶作画と構図で、これも空間や心情の描写を感じさせる凄い画です。アニメだからではと思うかもしれませんが、実写でも色や構図って大変重要で、ちょっと以前にバズってた映画の色の話とかを観て貰うと分かりやすく、大切さがわかるとおもいます。

www.youtube.com

まあ、画については私があーだこうだ言わなくても、作画がヤバいはジブリの代名詞的な部分もありますしわかっていると思います。あとツイッターとかで絵のプロの方々がどこがヤバいのかもっとロジカルに分かりやすく解説しているので、検索してみてください。

 

映画館のスペックが試される。

映写として一番話したかった項目ですね。

さっきのクオリティの話の続きにもなるんですが、これも音と画に分けて話します。

なるべく簡単に書くよ!

 

まず音です。

ナウシカは当時のMONOをそのまま踏襲して、デジタル上映ですがCchオンリーの音源です。よくある2chMONOと言われるLRchに同じ音を出すMONOではなく、ほんまもんのCchだけの音になります。しかし、ナウシカの音はCchだけなのに奥行と立体感を感じる音がはいっているので、程度の低いスピーカーシステムを使っていると、その立体感が表現できず、薄っぺらくなります。それと、昨今のマルチチャンネルを想定した劇場では再生がとてつもなく難しい作品と言えます。

もののけ姫は5.1chですが、先ほども言った通りダイナミックレンジがとても広い作品で、音が豊かです。とくに個人的にここだ!!って思ったのはモロの声。

美輪さんの黙れ小僧!のあたりで、最初のアシタカとの会話のさとす様なささやきボイスの様な声の時の息遣いまで含んで聞こえる艶めかしさからのあの笑い声、これはニアフィールドモニタースピーカーレベルとかじゃないと難しい表現だと思います。

 

そして千と千尋の神隠し

これぶっちゃけエンドロールの再生が鬼難しいです。ここ数年で、一番嫌だったかも、、、

何故でしょうか、ランラン~ホホホホ~というところ以外はL,C,Rのメインスピーカー3chにボーカルが同じぐらいの信号レベルで居ます。

これの何で難しいかというと、簡単にいうとLCR全てのスピーカーがまったく同じ音響特性でないと完璧に鳴らすは成立しないんです。これは面白いので近いうちに別の記事にしようと思います。

 

 

ちょっと話は逸れますが

千と千尋ゲド戦記の二つ、これは当時ドルビーデジタルEXサラウンドという6.1chの上映です。

デジタル上映では5.1chデータとしてきているのですが、実はプロセッサー側のEXサラウンドモードを使う上映も想定されているそうです。

 

どちらで上映しても全く問題ないのですが、せっかくなので聴き比べてみました。

なんか6.1chのEXサラウンドモードで聞いた方が音質が柔らかくなったうえにサラウンド感の良さが上がった気がする!!!(プラシーボかもしれないし、音質が変わるはちょっとよくわからないのですが、たしかにそう感じました)

ただ、これは普通の劇場ではあまり使われない機能であり特殊ですので、Exだから凄いとかそいう事はありません。断じて。

千と千尋ゲド戦記は、ナウシカもののけより新しい作品になりますので音も新しい感じです。マルチチャンネルの再生がとっても映える作品です。

 

つぎに画ですが、

アニメ作品の怖いところの一つなのですが、実写以上に発色がとてつもなくプロジェクターの状態に影響します。

プロジェクターの色調整が甘いと上手く色がでませんし、画の部位で色が変わってしまって、全体で正確な色がでません。

 

SXRDというソニー製プロジェクターの話になりますが、SXRDの画は3段階のグレースケールで色の状態が確認できます。それで、例えば中間色だけ色が崩れるとかもあり、知らなければ気にならない事の方が多いのですが映画館としては致命的な状態です。

色味にかんしては逃げになるのですが、直すのにコストと時間が凄まじくかかる作業なので、劇場側も正直ちょっと妥協している事も多いです。

 

ジブリの作画はすさまじく繊細なので、ちゃんとしたプロジェクターとそうでないので観るのとでは、印象が全く変わります。

安定して勧められるのはドルビーシネマの劇場であればとりあえず今の所問題なく観れるとおもいます(全部回ったわけじゃないので断言はできません)

 

長くなりましたがとりあえず、めちゃくちゃ上映するのが難しい4作品だってことです。

 

 

そんなこんなで色々な意味でジブリ映画は映画館で見て欲しい作品ですので、コロナの事情もありますが、エチケットと劇場のコロナ対策のルールを守って是非に最寄りの映画館でご覧になってくださいませ。