映写雑記

映画館の設備視点

映画館の音量の決め方

こんにちは、煉獄さんは映画館も守ってくれました。と言わんばかりの映画館業界ですね。

 

 

さて、今回は映画館の音量についてぶつぶつとたれ流していこうと思います。

 

映画館の音量の基本

映画館の音量にはベースとなる基準があります。

映画館に詳しい方は聞いた事があると思いますが、ピンクノイズという「ザー」というテレビの砂嵐の親戚みたいな音を、シネマプロセッサーの規定ボリュームで出した時に音量を測定して、5.1chのシステムであればスクリーンのスピーカーは85dB(デシベル)、サラウンドは82dB、サブウーファー89dBという数値で統一します。ドルビーアトモスとかはちょっと違う基準になるので割合しますが、全部音量は測定してベースが決まっています。

 

そして制作スタジオもこの基準で作られています。

なので理屈的には、映画を作った時の音量をシネマプロセッサーのボリュームを測定時のボリュームに合わせていれば、そのまま映画館でも流せるという事になっています。

それが制作した人たちが聴かせたいボリュームになるわけです。

 

しかし、世の中そんなうまくいきません。

やはり各映画館は映写スタッフが試写テストによって作品ごとによって音量を確認し調整しなければいけません。

 

映画館で音量を決めるワケ

上記でも触れたように、理屈的には音量は決まっていて考える必要がないのですが、色々な理由でそうなりません。その理由の代表的なものを書いていきます。

 

1、そもそも空間の大きさ音響特性、スピーカーが違う

あまり馴染みがないとピンと来ないかと思うのですが、まずスタジオと映画館では空間の大きさが違います、それだけで測定値は同じ85dBだったとしても全く聞こえ方は変わってきます。

スピーカーもスタジオモニターと言われるスピーカーと、映画館用のシネマスピーカー、または最近使われるPA用のスピーカーでも変わってきます。

85dBを測定して数値上は一緒でも、人間の耳はそれ以上に繊細なので一緒になりません。スピーカーだけの話をすれば軽自動車の時速100kmの走行と大排気量の車の時速100kmの走行の余裕の違いと似たようなニュアンスです。

測定の都合の問題で測定器上では85dBでも同じ85dBにはならないという罠もあります。

 

実際に私は制作現場にお邪魔して、そこでまずその作品の音を聞いて、その作品をしっかり基準を出している私自身で測定に関わって音響特性を知っている私のいる映画館のスクリーンで聴き比べましたが、全然一緒にはならなかったです。

制作側が映画館に近い環境で確認してる場合だと、問題なくそのまま行けたりします。

 

※アカデミックカーブなどの音響特性の基準もありますが、ややこしいので省いてます。

 

2、低予算作品などだとスタジオの基準が違う場合がある

映画用のスタジオで作られた作品であれば問題はあまりないと思いますが、スタジオの基準が違うとそもそも合いません。たまーに私の映画館でもあります。

逆もしかりで、しっかり基準を出していない映画館であればそもそも合いませんね。

 

3、接客業ゆえに

一生懸命作っていただいている制作の人には悪いのですが、どうしても音量を抑えなければいけない場合があります。

たとえば子供向け作品です。幼児向けであれば、あまり大きすぎる音は出せません。

子供の耳に負担をあまりかけたくありません。

あと子供の耳は大人以上に敏感で、特に高音は大人に聞こえない帯域までしっかり聞こえています。なのでかなり慎重に考えます。

 

大人向けだったとしても、あまりに高音がキツイとか低音が酷いとかの場合、まずもってお客さんが不快になってしまったり大人でも耳にダメージが生まれます。

常に音の仕事をしていると麻痺しがちなのですが、一般の方の大多数は大音量に慣れていませんし、刺激の強い音に対しての耐性も低いです。

それに「酷い音だ」と制作に文句言う人ってほぼいません。

大体は映画館に言われます。リアルタイムに接客しているので制作に言ってくださいとか言えませんし、そもそもお客さんからすれば、知らんがなって話です。

なのでそこらに気を使わなければいけないため、音量を下げる場合があります。

 

音量で調節ができなかったり勿体なかったりする場合はちょっとこっちで整音してしまいますがまあそれは別の話でもあるので今回は触れません。あくまで全体的な映画館のお話しです。

 

音量の決め方

じゃあ、映画の音量って何を基準で決めてるのという話です。

家で映画を観る時にも使える事なので知っていて損はないと思います。

 

映画の音は基本的にセリフで決めます。セリフを決めれば他の音も自然と適正になります。

家で観る場合は好みのセリフの音量でみると良いと思います。

映写スタッフの観方はちょっとそこから踏み込みが深く、男女の差や言語、録音の質などのたくさんの材料の中から判断して決めます。

 

一番説明しやすいのが言語ですかね。

日本語は母音言語になります。英語は子音言語となります。

英語は日本人の耳にはちょっと痛いと感じる音がリスニングに大事になってきます。なので英語ベースで考えるとちょっと日本人にはうるさいんです。

フランス語や韓国語はかなりアタックが強いので、こちらも普通に聞いていているとしんどくなりやすいです。

その辺を加味して音量を探っていきます。この辺は定量化できないので、経験値が占める割合が大きいですね。

 

それと、スピーカーの性格なども考えて決めてますね。

このスピーカーはヤンチャな子だからこうとか、この子は清楚だからこうとか考えながらやっています。

 

 

とりあえず映画館の音量の基本的な事はこの辺でしょうか。

特別調整の上映などはまた違った尺度になるのでここの話とは変わってきます。

 

ではまた。